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星といのちのうた 人生のすべてが祈りでありますように

ヘンリー・ソローと動物たち


ソローは……私たちを愛想よく歓迎し、中に入るよう勧めてくれた。子供の私にも、どこかエマソンに似ているとも思える声と態度で、しばらくの間、オルコット氏と話していた。彼は背丈があり、いかつい感じの人で、松のように真っ直ぐであった。鼻は力強く、顔を支配しており、目は鷹のように鋭かった。彼は眼で話し、強い眼差しで周囲のすべてのものを理解するように思えた。

彼はウォールデンの森の野生の花についてオルコット氏に語っていたが、突然、話すのをやめて、「そのままじっとして。私の家族をお見せしよう」と言った。すばやく小屋のドアから外へ出て、低い音の不思議な口笛を吹いた。するとたちまち、ウッドチャックが近くの巣穴から彼のほうへ走ってきた。やはり低い音の不思議な、しかし異なる音色で口笛を吹くと、つがいの灰色のリスが呼び出され、恐れる様子もなく彼に近づいた。さらに別の音色で、二羽のカラスのほか数羽の鳥がソローのほうへ飛んできて、一羽のカラスなどは彼の肩にとまった。カラスがいかに人間を恐れているかを知っていたので、頭のそばにとまったのは、とくに強烈な印象を与えた。彼は手ずからすべての動物にポケットの食べ物を取り出して与え、私たちが驚いて見つめる前で優しく愛撫した。それから、やはり不思議な低い音色の短い口笛で解散を命じると、どの野生動物もその特別な合図を聞くやいなや立ち去った。


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それから私たち五人の子供をボートに乗せて湖に連れて行き、岸辺から少し離れたところで漕ぐのをやめ、持っていたフルートを吹くと、その音は静かで美しく透明な水の上を響き渡った。彼は突然、フルートを置くと「ずっと昔」ウォールデンとコンコードの周辺に住んでいたインディアンの物語を話してくれた。またウォールデンの森の不思議についてやさしく明確な説明をして私たちを喜ばせた。再び突然、その話を中断すると、ウォールデンの周辺で生育している多様な種類のユリについて話し、ヤマユリを荘厳な野生的なものと呼んだ。……岸に戻ると、香りのよいたくさん蕾をつけた花を摘むのを手伝ってくれ、私たちは喜びに満ちて家路についた。


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ヘンリーはみんなを絶対に静かに、そしてひとところにいるようにと座らせ、それから注意深く前へ出て、みんなの前にパンくずを散らして引き下がり、自らも他の者たちの少し前に座り、一種の巻き舌音あるいはハミングする音を出し始める。するとリスたちが引き寄せられて来て、最後は彼の両手から食べ始めるのであった。


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野生のペットすべてのなかで彼の一番のお気に入りはネズミだった。ソローによると家の下に巣を作っていて、彼が昼食をとるときに出てきて、足元でパンくずを拾い上げるという。このネズミはこれまで一度も人間というものに出会ったことがなかったので、それだけ早く親密になれたのであった。ソローの靴を乗り越えて、ズボンの内側を駆け上がり、鋭い爪で肌にしがみついたり、ちょっと驚くと部屋の側面を上るので、リスそっくりであった。チーズをひとかけら差し出すと、やって来てソローの指の間でかじり、それから蠅のように顔と手足をきれいにした。

ハーメルンの笛吹き男のように、ソローはそのネズミをフルートで隠れ家から呼び出し、友人たちに披露できたのである。小屋には飾り物はほとんどなかったが、その一つが押入のドアに置かれた、彼自身とペットのネズミのデッサンであった。

ヘンリー・ソローの日々 / 山口晃 訳



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by yamanomajo | 2019-06-09 20:35 | 言葉