カテゴリ:詩( 16 )

時代おくれ / 茨木のり子


「時代おくれ」

車がない
ワープロがない
ビデオデッキがない
ファックスがない
パソコン インターネット 見たこともない
けれど格別支障もない

そんなに情報を集めてどうするの
そんなに急いで何をするの
頭はからっぽのまま

すぐに古びるがらくたは
我が山門に入るを許さず
(山門だって 木戸しかないのに)
はたからみれば嘲笑の時代おくれ
けれど進んで選びとった時代おくれ
もっともっと遅れたい

電話ひとつだって
おそるべき文明の利器で
ありがたがっているうちに
盗聴も自由とか
便利なものはたいてい不快な副作用をともなう
川のまんなかに小舟を浮かべ
江戸時代のように密談しなければならない日がくるのかも

旧式の黒いダイヤルを
ゆっくり廻していると
相手は出ない
むなしく呼び出し音の鳴るあいだ
ふっと
行ったこともない
シッキムやブータンの子等の
襟足の匂いが風に乗って漂ってくる
どてらのような民族衣装
陽なたくさい枯れ草の匂い

何が起ころうと生き残れるのはあなたたち
まっとうとも思わずに
まっとうに生きているひとびとよ

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by yamanomajo | 2017-10-13 19:03 |

生命は / 吉野弘


生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする

生命はすべて
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ
世界は多分
他者の総和

しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?

花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない

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by yamanomajo | 2017-09-18 17:32 |

夜に / 志樹逸馬


「夜に」

おまえは
夜が暗いという
世界が闇だという

そこが
光の影に位置していることを知らないのか

じっと目をつむってごらん
風が どこから吹いてくるか
暖いささやきがきこえるだろう

それは
いまもこの地球の裏側で燃えている
太陽のことばだよ

おまえが永遠に眠ってしまっても
新しい光の中で
おまえのこどもは 次々に生まれ
輝いている 変らない世界に住むのだよ

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by yamanomajo | 2017-09-01 13:04 |

真実 / 竹内てるよ


「真実」

自分をうそつきに落とす位ならば
むしろ いさぎよく死のう
社会は 真実を生きようとするものに
全身の敗北 これ一つを残した

悲嘆は単なる身の上の不合理ではない
貧乏や 病苦を泣いている時代はすぎた
常に私は
信ずるみちにひたむきである

たとえそのことのために
誰にすてられても
未来をもたない信頼
進展のまえにしりごみする友情
そんなものは 要らない

負けるな! 
私は天真の人間を感じながら
幸いにも 常に 確信をもつ
正しいみちを生きてゆくことの自負に
心よ 一切を超克しよう

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by yamanomajo | 2017-08-19 20:39 |

蓄音機 / 金子みすゞ


「蓄音機」

大人はきっとおもっているよ、
子供はものをかんがえないと。

だから私が私の舟で、
やっとみつけたちいさな島の、
お城の門をくぐったとこで、
大人はいきなり蓄音機をかける。

私はそれを、きかないように、
話のあとをつづけるけれど、
唄はこっそりはいって来ては、
島もお城もぬすんでしまう。

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by yamanomajo | 2017-08-10 12:16 |

蜂と神さま / 金子みすゞ


「蜂と神さま」

蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
 
お庭は土塀(どべい)のなかに、
土塀は町のなかに、
 
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。
 
そうして、そうして、神さまは、
小ちゃな蜂のなかに。

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by yamanomajo | 2017-06-27 18:10 |

無垢の予兆 / ウィリアム・ブレイク


To see a World in a grain of sand,
And a Heaven in a wild flower,
Hold Infinity in the palm of your hand,
And Eternity in an hour.

一粒の砂のうちにも世界を見、
一輪の野の花のうちにも天国を見、
手のひらに無限をつかみ
一時(ひととき)のうちに永遠を持つ。

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by yamanomajo | 2017-06-27 18:06 |

魂に告ぐ / 服部つや


「魂に告ぐ」

いとしい私の魂よ
しずかに独りを守っておいで

孤独の悲哀が
どんなに深くあろうとも
夕暮れの小窓によって
さめざめと寂寞を嘆く
おまえであろうとも
より以上の幸いを
求めてはならない

大きい喜びを願う心
やがては それが
永遠に癒されぬ心の傷手
数倍の悲哀を
もたらす源となるのだから

幸福は 真夏に咲く
毒空木のように
そしてまたは秋咲く
彼岸花のように
遠くで見ている時にのみ
美しい

うるわしい あの影に
深く秘められた 毒の液を
誰が思い及ぼそう

与えられた運命に
満足して静かに
「寂」そのものに浸っているのが
お前にとって一番尊い。

いとしい私の魂よ
唯独りを守っておいで
孤独の悲哀が
どんなに深くあろうとも。

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by yamanomajo | 2017-06-24 19:46 |

真実 / 千野敏子


「真実」

真実
真実
真実というただ一つのことをおいて
どうしてこの世を生きてゆく道があろうか。
虚偽の世界に住み
そしてその世界より一歩も出ずして
虚偽のうちに死んでゆく者の哀れさ
真実に生きよう。
つねに真実に生きよう。

今の自分に思想などあるものか。
それは経験より生まれ出づるもの
数々の激しい苦闘
それを闘い抜いて初めて生まれるもの
今の自分はこの世に初めて生まれてきたときの、そのまま
苦闘の経験も何も持たない
ほんの何もない、幸福に浸り切った一人の少女
この自分に思想などあるものか。
やがて思想の生まれてくるときまで
そうだ、いつの日か自分は思想を生む
いや、生まねばならない。
数々の激しい苦闘の後の
輝ける玉の如き思想を
自分は生まねばならない。
やがてその思想を生み出すときまで
自分はつつましく、ひそやかに
文も書き、詩も書いていこう。
世の怒涛に向かって敢然と大声で叫ぶ
それは数々の激しい苦闘の後
誰にも恥じぬ玉のごとき思想の生まれたとき
そのときまで、自分はつつましく、ひそやかに
地球の一隅にじっと座って身の回りのものを眺めながら何でもしていこう。
激しい苦闘の経験の後の玉のごとき思想を
今持っていなくとも
私は誰にも恥じない唯一つの信念を持っている。
真実。
そうだ、これを誰に恥じよう。
真実に生きよう、
常に真実に生きよう。
決して自己を欺くことなしに。
真実という唯一のことなくて
どうしてこの世を生きてゆかれようか。
真実に生きよう。
やがて輝ける玉のごとき思想を生み出すときまで
――そしてその思想を生むに到るまでの
数々の激しい苦闘も
常に信実をもって闘い抜くのだ――
そのときまで、真実に地球の一隅にじっと座って
何でもしていこう。
真実に生きるもののみが、最後の精神の勝利者となることを信じつつ
ひそやかに
真実に生きよう
つねに真実に生きよう。

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by yamanomajo | 2017-06-22 08:19 |

不思議 / 金子みすゞ


「不思議」

私は不思議でたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかっていることが。

私は不思議でたまらない、
青い桑の葉たべている、
蚕が白くなることが。

私は不思議でたまらない、
たれもいじらぬ夕顔が、
ひとりでぱらりと開くのが。

私は不思議でたまらない、
誰に聞いても笑ってて、
あたりまえだ、ということが。

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by yamanomajo | 2017-06-15 19:20 |

孤独、自然、瞑想、哲学、生命。


by 三浦花心
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