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星といのちのうた 人生のすべてが祈りでありますように

粋に暮らす言葉 / 杉浦日向子


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江戸っ子の基本は三無い。持たない、出世しない、悩まない。



江戸の人は大人になるということは、あきらめるというのを知るということであって、あきらめないうちは子供だ。あきらめることを知ることによって、どれだけ楽しみが増えるかというふうに言っている。



こそぎ落していく、背負い込まない、吐いていく、削除していく。そうやって、ぎりぎりの最低限のところまで削り取っていく。命からどれだけすべてのものを出しつくして死のラインまでいきつくか。



主張があるのは、たいてい野暮です。近代以降は誰しも主張していかないと、アイデンティティーをちゃんと持っていないとダメみたいな、強迫観念がありますが、江戸では敢えて主張しないものに価値を見出すところがあります。



余分に買って捨てることほど、愚かで恥ずかしい文化はない。捨てるだけの容れ物なんて、もう、はじめから要らない。



もっと、ずっとシンプルに暮らせるはずなのに、なんでこんなに、生活を武装するほど物を持たなければならなくなったのでしょうか。何を生産するにも、より多く早く安くっていう価値基準を、もう変えないといけない。



葉をすべて落とした、黒い冬枯れの木に、江戸の粋を見る。蕪村の句の「斧入れて香(か)におどろくや冬こだち」の意気だろう。



江戸では、頑張るは我を張る、無理を通すという否定的な意味合いで、粋じゃなかった。持って生まれた資質を見極め、浮き沈みしながらも、日々を積み重ねていくことが人生と思っていたようです。



なんのために生まれて来たのだろう。そんなことを詮索するほど人間はえらくない。三百年も生きれば、すこしはものが解ってくるのだろうけれど、解らせると都合が悪いのか、天命は、百年を越えぬよう設定されているらしい。なんのためでもいい。とりあえず生まれて来たから、いまの生があり、そのうちの死がある。それだけのことだ。



江戸人は、この、無名の人々の群れです。このような人生を語らず、自我を求めず、出世を望まない暮らし振り、いま、生きているから、とりあえず死ぬまで生きるのだ、という心意気に強く共鳴します。



何の為に生きているのとか、どこから来てどこへ行くのかなどという果てしない問いは、ごはんをまずくさせます。



江戸のころには「闘病」という言葉はありませんでした。かわりに「平癒(へいゆ)」と言いました。病とは、外からやって来るものばかりでなく、もともと体に同居していた、ちいさな身内だったのかもしれません。



死に至る病を宣告されると、「ガビン、何で私だけが何も悪いことしていないのに」。あれが現代人の弱さですね。江戸っ子にとっての死というのは、突然襲ってくる理不尽なものではなくて、日常の中にいつでもある、それが江戸の懐の深さなんです。



便利は、不健康だ。不便を、克服してゆく過程で、ひとは、ちからをたくわえていく。



わたしたちはつねに右肩上がりでないといけないという幻想にさいなまれている。でも本来は去年と同じ年収で暮らせる社会のほうが幸せなんです。



悟りというのは達するものではなくて瞬間であって、悟った瞬間、また俗にまみれていくんですよ。その人が尊いか尊くないかというのは、生涯のうちに何回その悟りの瞬間が得られるか。



死を原点として、さかさまに世の中を眺めれば、情愛も忠義も滑稽な舞踏(或いは音のないテレビ)のように見えるでしょう。



江戸の人たちは概して楽に生きて、楽に死んでいったような人が多いですね。つまり、普段、頑張っていないんです。



頑張って日々を暮らしていると、死の間際まで頑張らないといけないので、「まだ死ねない。なぜいま死ななくちゃいけないんだ」って死に抵抗するわけですけど、らくーに生きてると、らくーに死ねるわけですよね。



ニコニコと貧乏をしている。江戸はまるで趣味で貧乏をしているようなところだ。


江戸の寺子屋の教育の基本は、ただひとつ「禮(れい)」でした。禮を尽くす人になれと教え育てたのです。禮とは豊かさを示すと書きます。豊かさとは心の豊かさで、自分自身の心が満ち足りていなければ、他者を敬ったり、許したりできないということです。



今ですと、知識を身につけるとか、何かを纏う、つまり何かを抱え込むことによって、悩みから抜け出せたり、外敵から身を守ったりするのが普通ですが、困ったときは裸になれ、ほっぽりだせっていうのが、江戸人の方法です。



二百五十年続いた泰平の世は、言うならば低生産、低消費、低成長の長期安定社会。モノが少なく、江戸の庶民はみんなが貧乏。











by yamanomajo | 2017-10-07 13:11 | 言葉