雪はただ白く降りて / 大野百合子 2


d0366590_09471546.jpg


「真夜中」

真夜中
私はふと起き上がり
静けさの中に坐る

真夜中には声がある
深く見つめるところにひそむ力がある
私はどうしようとするのだ
ただ、たった一つのものであるようにと願う

私はまたすぐ眠るだろう
私のすべてを
ただ守る者の手に任せて


……


「夜に」

空に星をまき
地上に平和を与える
手よ
悲しみがあれ
悩みがあれ
私は守られる
手よ
すべてのものの上に置かれる
形なき手よ


……


「詩を書く時」

詩を書く時
私は
大空にふかぶかと伸びた
何かの木になるのです
そよ風は
どんな細い梢の先にも
やさしく触れて行きます
そうしてたくさんの小鳥達は
私の肩のあたりに休んでは
また飛んで行きます
誰も知らない中に
きれいな雲が湧くのも
真昼の星が一ぱい白く光っているのも
知っています
いつかの夜は
空と土とが
やさしい言葉を交していたのを
聞いていました


……


「或る夜」

灯をともしてそのまゝ
窓から外を見ていた
風もやみ 雪もやみ
一つの星もなささうに
静かだ
なにか匂やかな
ほの白い屋根々々の雪
その上をよく見ると
青い光りが空一ぱいに満ちていた
人々よ
こんな夜こそ
互の胸のうちに忘れられていた灯をかきたて
やさしいものおもひに耽ろう


……


「星空」

すべてのものは
夢みるように
眠っている
守られたものの安らかさで
やさしく落ちついて
そしてなんという美しさだろう
今天と地とは一つのものになり
地の上にまで
星が満ちて来た
あゝ自分は
すべてのものを愛しているのに
気がつく


……


「春」

雪解けて
小川のふちに
芹の芽出でたり

我れもまた
あたらしきもの身につけ
すがすがしく心も清まりて
芹の芽の如く
小川のふちに立ちて
こくこくと
その流るゝ音を聞けり


……


「四月のうた」

わが心は
青き空
青き空に
わが歌は
やさしく調べたり
幼きはらからは
われをめぐり
胸毛白き小鳥は
赤き実を地に落しぬ
充ち満つるもの
なべてのものの上にあり

[PR]
by yamanomajo | 2018-01-28 10:02 |