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星といのちのうた 人生のすべてが祈りでありますように

ハリール・ジブラーンの詩 / 神谷美恵子 訳


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「苦しみについて」

苦しみについてお話し下さい、とある女が言った。
彼は答えた。
あなたの苦しみはあなたの心の中の
英知をとじこめている外皮(から)を破るもの。
果実の核(たね)が割れると中身が陽を浴びるように
あなたも苦しみを知らなくてはならない。
あなたの生命(いのち)に日々起こる奇跡
その奇跡に驚きの心を抱きつづけられるならば
あなたの苦しみはよろこびと同じく
おどろくべきものに見えてくるだろう。
そしてあなたの心のいろいろな季節をそのまま
受け入れられるだろう。ちょうど野の上に
過ぎゆく各季節を受け入れてきたように。
あなたの悲しみの冬の日々をも
静かな心で眺められることだろう。

あなたの苦しみの多くは自ら選んだもの。
あなたの内なる薬師(くすし)が
病める自己を癒やそうとして飲ませる苦い薬。
だから薬師を信頼して
黙ってしずかに薬を飲みなさい。
薬師の手がたとえ重く容赦なくとも
それは目に見えぬもののやさしい手に導かれている。
彼が与える杯がたとえあなたの唇を焼こうとも
それは大いなる焼物師が
自らの聖なる涙でしめらせた
その粘土でつくられたものなのだ。




「しゃべることについて」

しゃべることについてお話を、とある学者が言った。
彼は答えて言った。
心が平和でなくなったとき
あなたがたはしゃべる。
心の孤独に耐えられなくなったとき
あなたがたは唇に生き
音は気散じと慰みになる。
おしゃべりの多くの中で
思考は半ば殺される。
思考は空間を必要とする鳥だから、
ことばの籠の中では羽をひろげるだけで
飛びたつことができない。

ひとりで居るのを恐れて
話好きの人を探し求める者がある。
ひとりで黙っていると、裸の自己が見えるから
それを逃げたいと思うのだ。
ある者は自分でもわからずに、
知識も予感もなく話しているうちに、
ある真理をあきらかにすることがある。
かと思うと、内に真理を抱きながら
ことばで告げない者がある。
彼らのうちには、リズムある沈黙をたもって
精神が宿っているのだ。
道端や市場で友だちに会うとき、
あなたの内なる精神に導かせて
唇と舌を動かしなさい。
あなたの声の内なる声に
友の耳の内なる耳に語らせなさい。
なぜなら友の魂はワインの味をおぼえるように
たとえ色が忘れられ、器が失せた後でも
あなたの心の真実をおぼえつづけるだろうから。











by yamanomajo | 2018-02-23 09:18 | 言葉