海獣の子供 2~3巻 / 五十嵐大介


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この世界に在るもののうち、
僕ら人間に見えているものなんてほんの僅かしかないんだ。

宇宙を観測する技術が進んでわかったのは、
どんな方法でも観測できない“暗黒物質”があるという事。

宇宙の状態から暗黒物質が“ある”事だけは推測できる。
そしてその物質量の和は通常の物質の10倍以上かそれ以上…つまり、
宇宙の総質量の90%以上は正体不明の暗黒物質が占めている事になる。

僕たちは、何も見てないのと同じだ。
この世界は見えないもので満たされていて、
宇宙は僕たちに見えているよりずっとずっと広いんだよ。


・・・


俺は宇宙は人間に似てると思う。
…人間の中には、たくさんの記憶の小さな断片がバラバラに漂っていて…
何かのキッカケで、いくつかの記憶が結びつく…
その、ちょっと大きくなった記憶に、
更にいろいろな記憶が吸い寄せられて、結びついて大きくなっていく…

それが“考える”とか“思う”という事でしょう?
それはまるで…星の誕生、銀河の誕生する姿とそっくり…

…宇宙と人……


・・・


人間には理解できない、
そこにある事に気づく事すらできない秩序や価値や知があるかもしれないんだから。

どのような道を経て、今に至るかは違っても、
今 わたしたちのまわりにあるすべての存在は、
世界が生まれたときからきっかり同じだけの時間を経てここにある。

みんな対等だと思うけどね。
自分だけが頂点にいると思うのはマチガイだ。

あんたが見たのはほんの一部。
わたしたちはまだ何も知っちゃいない。
世界の何も見つけてない。
あまりに未知の事が多すぎて、全体像もその意味も、知るには至らない。


・・・


幽霊にもいろいろある。
「死者」の幽霊、「物」の幽霊と…「事」の幽霊…

わたしたちの言った事、した事は、風が水に皺を刻むようにこの世界に痕跡を残す。
それは形を変えながら拡がっていく。
鯨の歌の一節に形を変え…素粒子の振動の内に受け継がれる。

世界のどこかに永久に記憶された、わたしたちのした“事”
その痕跡を…「幽霊」と呼ぶ事もある。

ふとした瞬間にわたしたちは出会うのだ。
過去や未来の、“誰か”の記憶に…


・・・


光と水が体に浸み込んでくる…
そのときわたしの細胞とぶつかる音が、「記憶」を奏でる。
…記憶は伝わって伝わってわたしに届いて、わたしの気持ちをのせて。
また…伝わっていく…

この水は、どれだけの記憶を
蓄えているんだろう。

海底は無数の死体が降り積もってできた泥で覆われている…
それは…時間や記憶そのものだ…

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by yamanomajo | 2018-06-23 18:34 | 言葉