海獣の子供 4~5巻 / 五十嵐大介


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波も…
雲も…
わたしの目に見えるほとんどは
人間じゃない

世界の大部分は“人間じゃないもの”でできてるでしょう?
だからわたしは人間じゃないもののほうを多く見る。
でもどうやらそれはダメらしい…

世界を割合の通りに見ているだけなのに、
どうやら他の人たちは違うらしい…


・・・


ジムは死がキライだから。
いつも死を追い払おうとしている。
どうして?
形が変わるだけなのに。

生まれる
食べる
食べられる。
体の一部になる。
土になったり、
森になったり。
変わりながらぐるぐるまわる流れの中の一瞬にすぎないのに。

俺の中に「死」なんてなかったよ。
俺に「死」をくれたのはあなただ、ジム。

人間だけが「死」までの区切られた時空に閉じ込められている。
古くは違ったのに。


・・・


あの巨人が示しているのは“世界の姿”だ。
そういう神話があったろ?
世界が人体だとするなら僕らは中身…
山や海や生命はきっと内臓や血液なんだろう。
それは地球をひとつの機構(システム)として捉える考えと同じものだ。
はるか昔の人間は誰に教えられるでもなく、感覚的 経験的にその事を知っていた。
今でも本当はみんなが知っているはずなんだけど、意識のレベルにあがっていない。
何が違ってしまったのか…

ねえジム。
僕とあなたとの違いがわかる?
“言語”なんだ。
僕はごらんの通りおしゃべりだけど、言葉のない世界を持っている。
世界を受け止める事、認識する事を、言語に因らずしているんだ。
あのころと同じように…

言語は性能の悪い受像機みたいなもので、
世界の姿を粗すぎたり、ゆがめたり、ボヤかして見えにくくしてしまう。
“言語で考える”って事は決められた型に無理に押し込めて、
はみ出した部分は捨ててしまうという事なんだ。

鯨のうたや鳥の囀りアザラシの泳ぐ姿のほうが、
ずっと豊かに世界を表現している。
きっと昔は人類も同じだったはずだよ。
鯨たち…海の生物たちと同じ…
そのとき我々も…海そのものであり宇宙そのものだった…
かつて人間も…気高いケダモノであったのだ。

同じ“言葉”でも“詩の言葉”は音楽に近い。
僕はね、音楽や詩はこの宇宙のいたるところに満ちているものだと思う。
そしてきっと。
生命も同じところから来た…

今起こっている事は誕生の物語りだ。
“星のうた”もその事をうたっている。

僕たちは誕生の物語りの中にいる。


・・・


世界の秘密はヒントを、あるいはそれそのものを様々な形で現している。
鯨が抱く女神や、島の時をすり抜ける少年の姿を借りて。
海亀の瞳の色や、海岸の木の葉の形、風の肌触りを通して、
わたしたちに語りかけている。
お前の小さなてのひらの中にある物語りにも、世界は姿を借りて潜んでいる。

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by yamanomajo | 2018-07-11 19:39 | 言葉