自然と愛と孤独と / エミリー・ディキンソン


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私の鋭い耳には草の耳打ちが聞こえ
木の茂みは鐘の鳴るよう
自然の置く見張り番を避けて
私の隠れる場所はどこにもない

洞穴に逃げようとしたら
壁がさっそくしゃべりだした
創造物はみんな恐ろしい割れ目だ
私をあらわにさせるための


……


小石はなんていいんだ
道にひとりころがって
経歴も気にかけず
危機も恐れない
あの着のみ着のままの茶色の上衣は
通りすぎていった宇宙が着せたもの
仲間と交わり あるいはひとり輝く
太陽のように独立していて
途方もない無邪気さで
天命を果たしている


……


「自然」は私たちの見るもの
丘と午後
りす 日食 そして熊蜂――
いいえ 「自然」とは天国のこと

「自然」は私たちの聞くもの
米食い鳥と海
雷 そしてこおろぎ――
いいえ 「自然」とは調和のこと

「自然」は私たちの知るもの
だが それを言い表わす術はない
あの単一さの前には
私たちの知恵はなんと無力なことか


……


草の仕事はほんのわずか
いちめんの緑の草原で
ただ蝶の卵を抱き
蜜蜂をもてなしてやるだけ

そよ風の持ってきた
気持ちのいい節に合わせて一日身体を振り
太陽をスカートのすそに受け
だれかれとなくおじぎをする

一晩中 真珠の露を糸に通し
美しく身を飾る
このような話に比べると
侯爵夫人も平凡なもの

草は死ぬ時も同じこと
清い香りの中を往く
それは野の薬草が眠るよう
ナルドの草がしぼむよう

あとは立派な納屋に住み
月日を夢のうちに過ごす
草の仕事はほんのわずか
私も乾草だったらいい


……


もし私が死んで
あなたが生きていたら
すべてがいままでと同じに
時間はとうとうと流れ
朝は輝き
正午は燃えるなら
鳥が朝早く巣をつくり
蜜蜂が羽音をたてて飛ぶなら――
この世の事業をよそに
あの世へ旅立つのも気軽なもの
あの世でひなげしといっしょに寝ころびながら
「在庫状況よし」
「取り引き続行中」
「売れ行き好調」などと聞くのもすばらしい
紳士たちが生き生きと立ちまわる
あの気持ちよい情景などは
この世との別離を落ちつかせ
魂を安らかにさせるものだ


……


満ち足りることはわずかですむ
ただ一つでも十分――
あの天上の群れに
私たちは
こっそり加わる権利を持たないのか


……


空間に孤独があり
海に孤独があり
死に孤独がある
だが この中にさえまだ集りがあろう
あのさらに深い場所
あの極地で一人暮らすなら――
魂が魂自身だけを許している
その限られた限りなさに比べるなら――


……


詩人はただランプに火をともし
自身は去ってゆく
そのかきたてていった燈心が
もし太陽のようにも
生命の光を持つならば――
時代の一つ一つはレンズとなり
詩人の
ランプは輪をひろげる


……


魂は魂自身にとって
一番の友だち
それとも 敵が忍びこませた
もっともたちの悪いスパイ

魂は魂同士で安全だよと
どのような裏切りにも気づかない
だから 魂は魂の王様で
自分で自分がこわいのだ


……


運命にまさることを
学ぶのはむずかしい
だれも教えてはくれないのだ
だが 一度に少しずつなら
自分のものにしてゆける
魂はきびしく節制を守るなら
驚いたことには
天国に入るまで使えるもの


……


そこを飛びゆくものは
鳥 時間 そして熊蜂
これら悲歌を持たないもの

そこにとどまるものは
悲しみ 山 そして永遠
これらとて私を必要としない

あの眠りがあり復活があるところ
私にどうして天が説明できるだろう
謎はなんと静かに横たわっていることか


……


魂は自身の社会を選ぶと
後は堅く扉をしめる
もはやその神聖な仲間に
だれも押し加わってはならない

魂の貧しい門前に
立派な馬車が止まってももう心を惹かれることはない
靴ふきの上にたとえ皇帝がひざまずいても
魂はもう心を動かすことはない

私は知っている
魂が宏大な国からただ一人を選びとるのを――
それから後は 石のように
注意の栓をぴたりと閉ざしてしまうのを――


……


私は思う 地上は狭く
苦悩は絶対だと
そして多くの人は傷ついてしまうと――
だが それがどうだと言おう

私は思う 私たちは死ぬのだと
どのようなすばらしい生命も
衰えるのを免れないと――
だが それがどうだと言おう

私は思う 天国は
ともあれ公平な場所なのだと――
何か新しい方程式でも与えられるのか
だが それがどうだと言おう


……


私は美のために死んだ
墓に葬られるとまもなく
隣の部屋に
真理のために死んだ人が運ばれてきた

「何のために亡くなられた」彼はやさしく尋ねた
「美のために」と答えると
「私は真理のため 二つのものは同じもの
では私たちは兄弟なのだ」

それからは身内として夜を送り
私たちは部屋を隔てて話し合った
苔が二人の唇まで届き
二人の名前をおおうまで


……


私の受けとる唯一の知らせは
終日
「不滅」の地から送られてくるもの

私の見る唯一の舞台は
「明日」と「今日」
それに「永遠」も

私の出会うただ一人は
私の越えてきた唯一の道は「存在」

もしほかに知らせがあり
よい舞台でもあれば
お知らせしましょう


……


私が「死」のために立ち止まれなかったので
「死」がこころよく立ち止まってくれた
馬車には私たち二人
そして「不滅」とだけ

私たちはゆるやかに駆けた 彼は急ぐ様子もない
私はこの世の仕事も暇も
捨て去った
彼の親切に答えようとして

遊び時間に子供たちが輪になって群がる学校を過ぎた
こちらを見つめている田畑を過ぎた
沈んでゆく太陽も越えた

あるいは太陽が私たちを越えていったのか
露は震えぞっとするように身体を寄せあった
なぜなら私のガウンは小蜘蛛の巣
私の肩掛けは薄絹の網

私たちは止まった
地面が幾分盛り上がったような家の前に
屋根は見えるか見えないかというほど
軒の蛇腹はただ土の塊り

それから何世紀がたったろう
だがその一つとて一日より短く思われる
永遠を指して馬を向かわせたと
私が最初に信じたあの一日よりも

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by yamanomajo | 2018-11-21 19:59 |