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五月の風 / 山尾三省


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「畑から」

畑から
トマトがくる
よく熟した
トマトの匂いが高く香って トマトがくる

畑から
ナスビがくる
黒紫色に熟れた
食べるには惜しいほどの ナスビがくる

畑から
インゲン豆がくる
淡い緑色の
賢者の心の芯のような インゲンがくる

畑からいのちたちが くる
土の深さから
明るい光から
いのちといのちの 物いわぬ 奇蹟がくる




「山 人を見る」

人 山を見る
山 人を見る と
足柄山に住む 和田重正先生はいわれた
深く そのとおりである

田舎には
田舎の 静かな光がある

権力を望まず
経済力を望まず 知力さえ望まず
ただいのちのままに 日々をしっかりと努力によって
暮らしている人達の 静かな光がある

人 海を見る 海 人を見る
人 川を聴く 川 人を聴く
そして満月の夜には
人は深々と満月を眺め 満月もまた深々と人を眺める

田舎には
これからの千年も変わらない 田舎の光がある





「カボチャ花」

大きなカボチャの花が
大きなカボチャの葉叢(はむら)の中に
二十も三十も咲いている
四十も咲いている

カボチャの葉の中に
カボチャの花が咲いているのを見ると
なぜか 心の底からほっとする
安心する
カボチャの花が咲いていれば
いつでも死んでいいような
どこまでも生きていけるような
そんな 安心である

真っ黄色のカボチャの花が
大きな緑の葉叢の中で
二十も三十も咲いている
懐かしく
ありのまんまに 咲いている





「高菜漬け」

高菜の漬け物を油いためして
それと味噌汁の昼ごはん

もし高貴なる食事というものがあるなら
それが高貴
もし豪華なる食事というものがあるなら
それが豪華
もし質素なる食事というものがあるなら
それが質素

高菜の漬け物を油いためして
その葉をハシで広げ
御飯をくるんで ゆっくりと食べる

もし心ゆく食事というものがあるなら
それが心ゆく食事
もし悲しみのない食事というものがあるなら
それが悲しみのない食事
もし世界の前で 恥ずかしくない食事というものがあるなら
それが恥ずかしくない食事

高菜の漬け物を油いためして
それと味噌汁の昼ごはん





「切株」

畑の中の 切株に腰をおろして
あたりを眺めるときが いちばん仕合わせです

青草がいっぱいだな
風が吹いているな
水の音がきこえているな

キュウリの芽が 出てきたな
カボチャの芽が 出てきたな
インゲンの芽が 出てきたな

陽が照ると 心が明るく輝きます
陽がかげると 静かになります
静かになって われにかえります

畑の中の 切株に腰をおろして
あたりを眺めるときが わたくしが成就しているときです





「雨あがり」

雨あがりの道を
無数のうす紅色のトンボが 飛びまわっているので
わたくしの胸のうちにも
神というトンボが 無数に飛びまわっている

愛において 一日を始め
愛において 一日を働き
愛において 一日を終わらせなさい と
善き人は そのトンボにおいて 伝えられる
あまりに厳しい“ことば”であるが
そのことばから 逃れることはできない
それは私の要請であり
わたくしのことばなのであるから

雨あがりの道を
無数のトンボが飛びまわり
わたくしの胸のうちにも
無数の 神というトンボが飛びまわっている





「神の石」
たとえば 大きな丸石をひとつ 谷川でよく洗い
よいしょ とかかえあげ
家の中に 運びこむ

布でよく拭き
家の中の しかるべき場所に
それを置き飾る
するとそこから
一千四百万年の 石の時間が流れはじめ
地質学 という喜び
自然(じねん) という喜び
水のように湧き出してきて
その石が まぎれない 神の石となる





「安心な土」

団地の十三階に住もうと
海のほとりに住もうと
わたしたちは 土に属している
そのことを 忘れないように

土に片ひざをつくまでに 十年
両ひざをつくまでに 二十年
ついやしたけれど
むだではなかった

土は 安心のみなもと
土こそは 人類のみなもと

団地の十三階に住もうと
海のほとりに住もうと
わたしたちは 土に属している
そのことを 忘れないように





「単純な幸福」

星空がある ということが
単純な幸福である

星空がある ということは
精神の究極が あるということである

ここに在る精神の究極と
星空とは 別のものではない

美しくしたたる星空
それは 美しくしたたる ここに在る精神であり

単純な幸福である





「場所」

街中の とある道すじに
自分の喫茶店を 見つけておくように

海辺の とある岩の上に
自分の場所を 見つける

森の中の とある木陰に
自分の 場所を見つける

またこの世の 千差万別の仕事場の中で
自分の仕事という 場所を持つ

自分である場所
場 を持つ人は 神を持つ人である





「心」

心 が濃くなると
魂 になる

魂 が濃くなると
霊 になる

霊 が深まると
神 になる

神 が展(ひら)けると
仏 になる

仏とは いのち
いのち が濃くなると
心 になる





「土の道」

土の道を 歩いてみなさい
そこには どっしりと深い 安心があります

畑の中の道でも
田んぼの中の道でも
森の道でも
海辺の道でも

土の道を 歩いてみなさい
そこには いのちを甦えらせる 安心があります

畑の中の道でも
野原の道でも
島の道でも
アジア アフリカの道でも

土の道を じっくりと 歩いてみなさい
そこには いのちが還る 大安心があります





「尊敬(リスペクト)」

ウグイスへの尊敬
妻への尊敬
石への尊敬

風への尊敬
先達への尊敬
土への尊敬
先住民族への尊敬
水への尊敬
太陽への尊敬

自分の心の深奥への尊敬
すべてのいのちへの尊敬
月と星々への尊敬

場所への尊敬
親と祖先への尊敬
子供への尊敬

尊敬(リスペクト)のある未来社会が 今
足もとの土から始まっています





「風」

五月の風が 耳元で
やさしく語る

ぼくはね
かつて生まれたこともない存在だから
死ぬこともない

ただ 今を 吹いているだけ
どこからか 吹いてきて
どこかへ 吹いていく

不生(ふしょう)という むつかしい事柄が ぼくの本性
不滅という あり得ない事柄が ぼくの本性

そよそよと さやさやと
そよそよと さやさやと

五月の風が 耳元で
やさしく語る その一瞬 一瞬の
とろけるような 幸せです











by yamanomajo | 2019-12-16 16:45 |

雪の多い北国で田舎暮らし。独りでいることから何かを見つける人生。カラスたちが友達。自然農で野菜作りをしています。


by yamanomajo