石が好きです。
昔から、家の周囲にある川辺、家の遠くにある川辺で、石を拾い集めてきました。
家の中には、これまで集めてきたお気に入りの石がたくさんあります。
石には声があり、不思議な力があります。
呼びかけられ、引きつけられ、拾い上げます。
理由はありません。
拾わずにはいられないから拾います。
子供が宝物を集めるように。
“森の声を聞こう。遠い星団から吹いて来る風の記憶を、雲の語る世界の…”
この文章は、ジブリの「耳をすませば」という映画の中で、
主人公の雫が自作小説の冒頭で書き記す文章です。
森羅万象、どんなものにも声があり、記憶があり、物語る世界がある。
森に、風に、雲に宇宙の記憶が刻まれているように、石にも宇宙の歴史と声が刻まれている。
「耳をすませば」の中で、主人公の雫が石を手にするシーンがあります。
このシーンがとても好きです。
その後、雫は猫のバロンに導かれてイバラードの世界に入り込みます。
イバラードは、画家の井上直久さんが描く幻想の世界です。
井上直久さんが描くイバラードの世界には、
どこか懐かしい、人間本来の故郷のような、言葉にできない美しさがあります。
家にあるイバラード博物誌をときどき見るのですが、
見るたびに不思議な憧憬と、ファンタジーを超えたリアリティーを感じるのです。

井上さんの作品には、石を題材にしたものが多くあります。少女が一人で集めたと思われる色鮮やかな石たち。この作品のタイトルは「世界は私の標本箱」。
私はこの絵が大好きで、一時期部屋の壁に飾っていました。
「星を集めた日」。
ファンタジーの中にある神秘は、ファンタジーの中だけにあるものではなく、
実は現実世界にも同じようにある。
井上さんはインタビューの記事でこのように語っています。
「僕は、ファンタジーの世界は、“ここじゃないどこか”じゃなくて、“今ここ”にあると思っている。
今僕がいるこの世界がアナザーランド(異世界)。」
「あるんです。そこらじゅうにあるんです。見慣れたものでも、
まったく地球の文明と接点のない人に説明しようと考えると違って見えるんですよ。
ほかのものもみんな見方を変えれば、すごく不思議なものに見える。
それがわかれば、生きていることが面白くて仕方なくなるんですね。」
井上直久さんの公式サイトから、井上さんのさまざまな絵を見ることができます。
井上直久の世界
ただそこに在る、川辺の石たち。
物の見方が変わると、
当たり前のものが当たり前でなくなり、すべてが不思議に見えてくる。
そこに“在るもの”は、みな不思議。

拾い集めてきた石。砂。
石一つ一つに、声と物語があります。
砂から選り分けた透明なクォーツ。
夜の闇の中でランプにかざす石には、
昼とは違った表情と物語があります。