カテゴリ:詩( 26 )

丘の上には / 志樹逸馬


丘の上には
松があり 梅があり 山桃があり 桜があり
木はまだ若く 背たけも短いが
互いに陰をつくり 花のかおりを分ち
アラシのときは寄りそいあって生きている

ここは瀬戸内海の小さな島
だが丘の頂きから見る空のかなたは果てしなく
風は
南から 北から 東から 西から
さまざまな果実の熟れたにおい、萌えさかる新芽や
青いトゲのある木 花のことば を運んで吹いてくる

それは おおらかな混声合唱となって丘の木々にふるえ
天と地の間
すべては 光 空気 水 によって ひとつに
つながることを教える

風はあとからあとから吹いて来る
雲の日 雨の日 炎天の日がある
みんなこの中で渇き 求めているのだ
木はゆれながら考えている
やがて ここに 大きな森ができるだろう
花や果実をいっぱいみのらせ
世界中の鳥や蝶が行きかい
朝ごとににぎやかな歌声で目覚めるだろう

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by yamanomajo | 2018-05-19 21:16 |

さくら / 茨木のり子


「さくら」

ことしも生きて
さくらを見ています
ひとは生涯に
何回ぐらいさくらをみるのかしら
ものごころつくのが十歳ぐらいなら
どんなに多くても七十回ぐらい
三十回 四十回のひともざら
なんという少なさだろう
もっともっと多く見るような気がするのは
祖先の視覚も
まぎれこみ重なりあい霞(かすみ)立つせいでしょう
あでやかとも妖しとも不気味とも
捉えかねる花のいろ
さくらふぶきの下を ふららと歩けば
一瞬
名僧のごとくにわかるのです
死こそ常態
生はいとしき蜃気楼と


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by yamanomajo | 2018-04-26 19:41 |

衣裳 / 荒津寛子


「衣裳」

なぜ美しいものが着たいのです
沼のやうな
この階段をのぼりながら
ふしぎに思うのです
風が吹けば
どこからくるともわからない
風のような嗅覚に挑んで
黄や紫の踊りを舞うのでしょうか
紅白粉の匂いが散れば
一せいに飛び立つ蝶々の群
産卵期のひとときまえの
狂おしい白蟻の舞踏
乙女らよ
何かに追われるように
なぜ美しいものが着たいのです
いつ のぼりつめるともわからない
階段を
よくみれば それは
ひとつの大きな輪なのですね
もう千年以上もこの階段を
のぼっているのですが
乙女らよ
野に行こう
厚ぼったい胸飾りを捨て
草笛を吹いて競おうよ
黒髪で
私らの歴史を縫うため
そして
ゆめにきらめく
まなざしのため


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by yamanomajo | 2018-03-26 20:25 |

生は輝かしい生命(いのち)を満たすためのもの / チカップ美恵子


「生は輝かしい生命(いのち)を満たすためのもの」

死は急がずともだれにでもやってくる
生ははかないもの
それは生命の宿命
そして その生もまた生命あるものの宿命
今 ここにあるせっかくの
その生命を満たすだけ人生を夢中に生きただろう
かけがえのない生命を“もったいないもの”なのだと
心から いとおしんだことはあるだろうか
つまづき 戸惑い 打ちひしがれながらも
人は人生という途方もない深い海のなかを泳ぐように生きるもの
溺れそうになってもがき苦しむこともあるだろう
あるいはスムーズに岸辺にたどり着くことだってある
それは人によって実にさまざまである
人生の深い海を泳ぐとき体力と気力 そして努力を必要とする
しかし 人は一人ではない
ときには人の手を借りよう躊躇せずに
それがともに生きることなのだから
知恵をだしあおう
生命には無限大の可能性がある
大空に輝く星々のように輝く自分を見つけよう
創造性をはたらかせ本当の自分を見つけるのだ
自分を見つけ その魂にみがきをかけ
今 ここに こうして生きているという実感を味わうのだ
つらさや苦しさ 悲しみなどは
深く暗い海を泳ぐための人生の試練のようなもの
その試練こそが自分をきたえる強さになっていく
生は輝かしい生命(いのち)を満たすためのもの
寺院の暗闇は何より母の“胎”なのだから
人はそこに帰り
そこで生命の喜びにふれ
真理と出会うために そこを訪れる
神と一体となるために
太陽と月 そして地球の
大いなる“魂の謡(うた)”を聴くために



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by yamanomajo | 2018-03-10 08:52 |

しゃべることについて / ハリール・ジブラーン


「しゃべることについて」

しゃべることについてお話を、とある学者が言った。
彼は答えて言った。
心が平和でなくなったとき
あなたがたはしゃべる。
心の孤独に耐えられなくなったとき
あなたがたは唇に生き
音は気散じと慰みになる。
おしゃべりの多くの中で
思考は半ば殺される。
思考は空間を必要とする鳥だから、
ことばの籠の中では羽をひろげるだけで
飛びたつことができない。

ひとりで居るのを恐れて
話好きの人を探し求める者がある。
ひとりで黙っていると、裸の自己が見えるから
それを逃げたいと思うのだ。
ある者は自分でもわからずに、
知識も予感もなく話しているうちに、
ある真理をあきらかにすることがある。
かと思うと、内に真理を抱きながら
ことばで告げない者がある。
彼らのうちには、リズムある沈黙をたもって
精神が宿っているのだ。
道端や市場で友だちに会うとき、
あなたの内なる精神に導かせて
唇と舌を動かしなさい。
あなたの声の内なる声に
友の耳の内なる耳に語らせなさい。
なぜなら友の魂はワインの味をおぼえるように
たとえ色が忘れられ、器が失せた後でも
あなたの心の真実をおぼえつづけるだろうから。

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by yamanomajo | 2018-03-05 18:23 |

苦しみについて / ハリール・ジブラーン


「苦しみについて」

苦しみについてお話し下さい、とある女が言った。
彼は答えた。
あなたの苦しみはあなたの心の中の
英知をとじこめている外皮(から)を破るもの。
果実の核(たね)が割れると中身が陽を浴びるように
あなたも苦しみを知らなくてはならない。
あなたの生命(いのち)に日々起こる奇跡
その奇跡に驚きの心を抱きつづけられるならば
あなたの苦しみはよろこびと同じく
おどろくべきものに見えてくるだろう。
そしてあなたの心のいろいろな季節をそのまま
受け入れられるだろう。ちょうど野の上に
過ぎゆく各季節を受け入れてきたように。
あなたの悲しみの冬の日々をも
静かな心で眺められることだろう。

あなたの苦しみの多くは自ら選んだもの。
あなたの内なる薬師(くすし)が
病める自己を癒やそうとして飲ませる苦い薬。
だから薬師を信頼して
黙ってしずかに薬を飲みなさい。
薬師の手がたとえ重く容赦なくとも
それは目に見えぬもののやさしい手に導かれている。
彼が与える杯がたとえあなたの唇を焼こうとも
それは大いなる焼物師が
自らの聖なる涙でしめらせた
その粘土でつくられたものなのだ。

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by yamanomajo | 2018-02-23 09:18 |

雪はただ白く降りて / 大野百合子 2


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「真夜中」

真夜中
私はふと起き上がり
静けさの中に坐る

真夜中には声がある
深く見つめるところにひそむ力がある
私はどうしようとするのだ
ただ、たった一つのものであるようにと願う

私はまたすぐ眠るだろう
私のすべてを
ただ守る者の手に任せて


……


「夜に」

空に星をまき
地上に平和を与える
手よ
悲しみがあれ
悩みがあれ
私は守られる
手よ
すべてのものの上に置かれる
形なき手よ


……


「詩を書く時」

詩を書く時
私は
大空にふかぶかと伸びた
何かの木になるのです
そよ風は
どんな細い梢の先にも
やさしく触れて行きます
そうしてたくさんの小鳥達は
私の肩のあたりに休んでは
また飛んで行きます
誰も知らない中に
きれいな雲が湧くのも
真昼の星が一ぱい白く光っているのも
知っています
いつかの夜は
空と土とが
やさしい言葉を交していたのを
聞いていました


……


「或る夜」

灯をともしてそのまゝ
窓から外を見ていた
風もやみ 雪もやみ
一つの星もなささうに
静かだ
なにか匂やかな
ほの白い屋根々々の雪
その上をよく見ると
青い光りが空一ぱいに満ちていた
人々よ
こんな夜こそ
互の胸のうちに忘れられていた灯をかきたて
やさしいものおもひに耽ろう


……


「星空」

すべてのものは
夢みるように
眠っている
守られたものの安らかさで
やさしく落ちついて
そしてなんという美しさだろう
今天と地とは一つのものになり
地の上にまで
星が満ちて来た
あゝ自分は
すべてのものを愛しているのに
気がつく


……


「春」

雪解けて
小川のふちに
芹の芽出でたり

我れもまた
あたらしきもの身につけ
すがすがしく心も清まりて
芹の芽の如く
小川のふちに立ちて
こくこくと
その流るゝ音を聞けり


……


「四月のうた」

わが心は
青き空
青き空に
わが歌は
やさしく調べたり
幼きはらからは
われをめぐり
胸毛白き小鳥は
赤き実を地に落しぬ
充ち満つるもの
なべてのものの上にあり

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by yamanomajo | 2018-01-28 10:02 |

雪はただ白く降りて / 大野百合子


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「ある時」

誰もいやしない
けれど誰かがいる
ふかぶかとその人の呼吸が
こんなにも間近だ

誰もいやしやしない
けれどきっと誰かだ
こんなにもやさしく
私を呼びかける


……


「静かさの中で」

珍しく暖かいので
妹をつれた私は
かなり歩いてしまった
小さい山の斜めに坐ると
まだ青くならない草と土の香りがする
空はどうしてこんなにも高いのだろう
風はそんなにつめたくもなく吹いて来る
私は深い静かさにつつまれて
思うともなく
見るともなく
いつまでも坐っていた
私は私の心がきれいになって
静かなものにまざまざと触れ
なにか知りたいと思っていたことをはっきりと知った気がした


……


「田舎道から」

芝生は波のように
それよりも柔らかに
真青な追憶のように
目の中にゆれて来る

どこまでもつづいた道を
真直ぐに歩いて行くと
午後の陽を背にして
畑に立っている人々は
自分達の作ったこの青物畑を
どんなにか愛していることか
つぶらな青い実が見える葡萄棚は
小鳥達が巣でも作りそうに美しい

遠くから遠くへ風が渡って行く
あゝこの木陰で
一休みして行こう


……


「蜘蛛の巣」

小さい庭をめぐる
細い竹の垣根に
蜘蛛が巣をかけた
その垣根に
小さい葉をつけた蔦が這っている
何気なく手をさしのべ
何気なくからみついたように

風が吹くと
その葉が揺れて
巣が動く
ほんの風にも耐えない程な
子蜘蛛の初めての営みのような
その小さい巣が


……


「窓」

詩を書こうとして
自分はぼんやりと
何かを見ている時が多い
机の置かれた窓から

或る時は
雨の降りそゝぐのを見ていた
空の色を
そうして又夏の暮れ方などは
夜店へ行く花の車を
けれどこの頃はその窓硝子に
時折り雪の花が咲く

自分はながい事こゝに坐り
ながい事ぼんやりと見ている
しかし自分は
いつかそれを楽しんでいる


……


「ある場所で」

人々が歩いている
さあ大急ぎで、と
言っているように
青空が頭の上にひらけている
そんなことは知らないように
ほゝえみと歌うことを
知らない人のように
誰もかれも
知ることをなくしたように


……


「安息」

青空をゆらゆらと
白鳥が飛んで行く
―そんな気がするのです
その羽ばたきさへ
やさしく風をきり
こゝまで聞こえ来る
―そんな気がするのです


……


「雲」

雲が飛ぶ
雲の飛ぶのを見ているのは
自分の飛ぶのを思うようだ
風があるのか
あんな高いところに
想いがあるのか
あんな遥かなところに
自分がここにいるのか
あそこにいるのか

今日の空は
たった一つの雲を浮かして
ただ遥かだ


……


「雪はただ白く降りて」

雪は
あつきおもいあれど
底ふかくつつめる
静かなるこころなり

山々の峰に
火の如き風に吹かれ
いつかそのこころをはぐくめり

よしや地上に
おもうことかなわじと
嘆く人あらばとて
雪はただ白く降りて
静かなり

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by yamanomajo | 2018-01-25 18:55 |

私の墓は / 日塔貞子


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「私の墓は」

私の墓は
なに気ない一つの石であるように
昼の陽ざしのぬくもりが
夕べもほのかに残っているような
なつかしい小さな石くれであるように

私の墓は
うつくしい四季にめぐまれるように
どこよりも先に雪の消える山のなぞえの
多感な雑木林のほとりにあって
あけくれを雲のながれに耳かたむけているように

私の墓は
つつましい野生の花に色彩られるように
そして夏もすぎ秋もすぎ
小さな墓には訪う人もたえ
やがてきびしい風化もはじまるように

私の墓は
なに気ない一つの思出であるように
恋人の記憶に愛の証しをするだけの
ささやかな場所をあたえられたなら
しずかな悲哀のなかに古びてゆくように

私の墓は
雪さえやわらかく積るように
うすら明るい冬の光に照らされて
眠りもつめたくひっそりと雪に埋れて
しずかな忘却のなかに古びてゆくように…

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by yamanomajo | 2018-01-02 12:53 |

嘗て唄へる / 服部つや


「嘗て唄へる」

ただ独り
黙々として 歩むによし
ここ 野辺の路
前に人なく 後へに人なく
静寂はあたりに満ち満ちて
今し わが心
深き思いに沈みゆく

ただ独り
黙々と君を想うによし
ここ 野辺の路
君を偲ぶにふさわしき
うすむらさきの わすれな草
そして四つ葉のクローバーも
かたへにあるゆえ

ただ独り
黙々と来る日を想うによし
ここ 野辺の路
照り輝く太陽と
爽やかな風の中を
幸いの翼にうちのりて
今し わが心
果てしなきみ空を
かけりゆく


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by yamanomajo | 2017-11-22 17:34 |